インプラントとは?その評価と現実
歯周病の健康に与える影響について研究している学者は、世界中に数多くいます。
たとえば、フィンランドのK・マイラ博士が一九八九年に発表した「歯周病と心筋梗塞の関係」という研究論文によると、歯周病患者は一般の人に比べ三割程度高い割合で、心筋梗塞の発作を起こすという結果を発表しています。
この調査は、心筋梗塞の既往症のある患者と同じ地域に住む一般の人で比較対象試験を行ったものです。
すべての被験者に、虫歯の有無、失っている歯の数、プラーク、歯周ポケットの深さ、歯肉の炎症など歯科検診を実施しました。
もちろん、心筋梗塞のリスクは他にも多くの要因がかかわっているので、心臓発作のリスクファクターといわれる、年齢、総コレステロール、LDL(悪玉コレステロール)、高脂血症、高血圧、糖尿病、喫煙なども同時に調査して、データの解析を行いました。
その結果、従来の心臓病発症リスクファクターについては、はっきりとした因果関係が認められなかったとなっていますが、歯周病については明らかに心臓病の発作に関係あると結論づけているのです。
マイラ博士だけではなく、歯周病と心臓疾患について長期研究を行っている研究者もいます。
アメリカのデステファーノ博士のグループは、歯周病と冠動脈性心疾患の相関について実に一四年にわたり追跡調査しました。
この結果、歯周病患者はそうでない人に比べて、冠動脈性心疾患を発症するリスクが二五%も高いということがわかったのです。
さらに怖いのは、五〇歳未満の男性の場合、歯周病に感染しているというだけで、そうでない人に比べて七二%も冠動脈性心疾患を発症しやすいという結果になりました。
五〇歳未満というのは心疾患を発症するには若すぎる年齢です。
この追跡調査は九七六〇人を対象に行われ、年齢、性別、人種、教育、結婚歴、収縮期血圧、総コレステロール値、体格指数、糖尿病の有無、運動量、アルコール消費量、喫煙の有無、貧困など、冠動脈性心疾患についてリスクファクターの高い数値を補正して分析しています。
この大規模な追跡調査で、歯周病患者はそうでない人に比べて、一・五倍から二・八倍も冠動脈性心疾患や動脈硬化を起こしやすいことがわかりました。
つまり、歯周病が心臓病発症リスクを高めているということです。
さらに、二一歳から八〇歳の九二一人の男性を一八年以上にわたり追跡調査したところ、歯槽骨の吸収があるような重症の歯周病患者の場合、二〇七名は冠動脈性心疾患を発症し、五九名が死亡、四〇名が心筋梗塞を起こしていることがわかりました。
重症の歯周病患者は、動脈硬化を起こしやすい上に心筋梗塞の発作で死亡率が高いというのです。
外国の研究だけではありません。
二〇〇四年、東京医科歯科大学歯学部の石川烈教授のグループは医学部血管外科と共同で、動脈硬化症や大動脈痛と歯周病菌の関係について研究しました。
六九人の動脈硬化症の患者から、唾液や歯周ポケット、血管が詰まっている場所からサンプルを取り出し、細菌のDNAを調査したところ、どの場所からもポルフィロモナス・ジンジバリスという歯周病菌が発見されました。
動脈硬化を起こしている場所にもこの細菌が見つかったことからも、歯周病と動脈硬化や心疾患は何らかの関係があるということが考えられます。
現在も約二〇〇症例の血管疾患患者を対象とした研究を継続しており、血管疾患患者の八〇%の動脈壁に歯周病菌が発見されています。
テレビコマーシャルで歯周病菌が体内を巡っている映像がありますが、あれは想像の産物ではないということが、多くの研究からも類推されるのです。
メタポリックシンドロームは歯周病を悪化させる生活習慣病対策としてメタポリックシンドロームが注目され、二〇〇八年四月からは四〇歳以上を対象に特定健診が導入されました。
メタポリックシンドロームは生活習慣病を誘因し、心臓病などの循環器障害を引き起こすリスクが高いのでこれを是正しょうという取り組みです。
診断基準としては、内臓脂肪の面積が一〇〇平方センチメートル以上あり、①血清脂質異常(トリグリセリド値一五〇昭/劇以上、またはHDLコレステロール値四〇喝/劇未満)②高血圧(最高血圧一三〇皿Hg以上、または最低血圧八五皿Hg以上)③高血糖(空腹時血糖値一一〇喝/劇)という三項目のうち二つ以上を有する場合をメタポリックシンドロームと診断する、と規定しています。
このメタポリックシンドロームは、なんと歯にも多大なる影響を与えることがわかってきました。
九州大学大学院歯学研究院の斎藤俊行教授のグループは、内臓脂肪や重度の肥満は歯周病の雁息率を高めるという研究結果を一九九八年に発表しました。
二〇歳から五九歳までの男女二四一人を対象に、BMI値(体重(厄)÷身長(m)の二乗で割り出す体格指数)と、歯周病の雁息率の関係を調査したところ、BMI値が高い、つまり肥満度の高い人ほど歯周病にかかっている率が高いことがわかりました。
BMI値二〇未満の標準体重の人の指数を一とすると、BMI値二〇から二四・九の人で「七倍に、BMI値が二五から二九・九の人で、三・四倍、BMI値が三〇以上の場合は歯周病の雁息率が八倍になっているというのです。
しかも、体脂肪が五%上がるごとに、歯周病リスクが一・三倍ずつ増加するというのです。
また、リスク要因となる他の数値を加えて分析しても、内臓脂肪の多い人のほうが歯周病にかかるリスクが商いという結果になりました。
その後の研究で、この原因が脂肪細胞に関係していることがわかってきました。
脂肪細胞は余ったエネルギーを脂肪として蓄えておく貯蔵庫のようなイメージがありますが、近年の研究でこれ以外に生命維持に欠かせないホルモンを生み出す内分泌器官であることがわかってきています。
たとえば、脂肪細胞からレプチンが分泌されます。
このホルモンは、視床下部にある満腹中枢を刺激することで食欲抑制とエネルギーの消費を増やす働きがありますが、これが脂肪細胞から分泌されていたのです。
人間の体内には三〇〇億~六〇〇億個の脂肪細胞があるといわれ、食べ過ぎや運動不足などでエネルギーが余ると、脂肪として細胞に取り込まれるため脂肪細胞は肥大化します。
肥大化した脂肪細胞に免疫細胞の一つであるマクロファージが入り込んで増殖し、炎症を起こすTNF・αやアディポサイトカインと総称されるアディポネクティン、PAI-1などの腫瘍壊死因子を全身に送り出すことが報告されています。
これらの物質が増えすぎると血管が詰まりやすくなるので、再びマクロファージが増えて、脂肪細胞を活性化させて炎症を起こさせる腫瘍壊死因子が増えるという悪循環になります。
メタポリックシンドロームの人を血液検査すると、炎症を示す抗酸化CRPマーカーの数値が標準値より高くなっていることがわかります。
肥満というだけで、全身を炎症させることになるわけです。
炎症物質は、歯周病にも悪影響を与えます。
歯槽骨の吸収は、TNF・αによって引き起こされると考えられています。
歯周病にかかると歯周組織のいたるところに炎症が起こり、炎症を起こさせる腫瘍壊死因TNFlαが破骨細胞を刺激して骨を壊し歯槽骨の吸収を引き起こします。
肥満するとTNF・αの感受性が高くなるためにマクロファージの働きが鈍り、このためにさらに歯周病は悪化するというわけです。
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